- 作者: 高村光太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/11
- メディア: 文庫
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この中の「レモン哀歌」が特にお気に入りなので…
「レモン哀歌」
そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まつた
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう
いくつになったとしても、こんな純真な気持ちを持てたらいいな~と今更ながらに思うのであります…
(^o^ゞ